Share

かわいい訪問者 4

Aвтор: うみたたん
last update Последнее обновление: 2025-06-27 06:43:17

アレックスはマーゴをじっと見つめた。その顔はさっきより優しかった。それから消えるような声で言った。

「病院にいたんだろ?」

病院? どう言うこと?

マーゴはこの通りの数軒先に住んでいると言っていたはずだわ。

「退院して、カルバーンに来たばかりなんじゃないのか? だから顔も全く焼けてない。洋服がアルコール臭いのは消毒液の匂いか。さっきスカートの中に入ったとき思った」

彼女は否定しない。黙って正面を見ている。

「ちょっと失礼」

アレックスは立ち上がり、マーゴの長袖のブラウスのカフスを急に外して、二の腕まで捲り上げた。あまりにも突然だったので誰も阻止できなかった。

「ちょっ、本当に失礼よ!」

アレックスが女性でよかった。保安官に捕まってしまうわ。

「あっ」

私は思わず声をあげてしまった。そこにあったのは切り傷だらけの細くて白い腕だった。手首から肩の近くまで無数にある。全て古くて、最近の怪我ではない。

「あんたはマーゴでもあり、コリーでもあるんだ」

私は口を押さえた。

「貧民街はもう5,6年前に旧市街(オールドタウン)と言う名称になった。呼び名も最近はすっかり定着している。なのにあんたは、俺が訂正しても貧民街と言う。相手を低く見ているのかと思ったが、そうも見えない。純粋に知らないんだよな。隔離されていたから」

マーゴはため息をついた。

「いつも先にコリーが公園にいるのは、マーゴの人格がそれまで隠れているからじゃないのか?」

彼女は下を向いてうなだれている。

「あ、あぁ……ああ……」

彼女は低い声を出した。私たちは息をのんだ。マーゴは何か取り憑かれたように、ふふふっと笑った。少し恐ろしいような悲しいような気持ちになった。

「ふふふ……あぁ……私、前に進めてないんですね。時間をかけて治療して、私の中からコリーは出ていったのに」

マーゴはゆっくりと続けた。

「母親はとても弱い人でした。被害妄想もあって。私のせいで父親が帰って来ないと言って、私をよく打ちました。そのうち評判の悪い宗教にすがるようになりました。娘の体を刻んで悪い毒を出さないと、娘は死んでしまうなどと言われ……私の体をナイフで何度も切りました。とても痛くて恐ろしい体験で、もう耐えられなくなって……」

「コリーが出てきた」

アレックスが呟く。

「はい。母親はずっと機嫌が悪いわけではないので、そのときはマーゴの私です。あの恐ろしい儀式が始まると、私は毛布に包まるようにして奥に引っ込み、コリーに任せていました。儀式が終わると、その後は必ず二人で慰め合ったり遊んだりしたのです」

マーゴは冷めた口調で囁く。

「自分の部屋の中でですけど」

マーゴの家に行こうと提案したら、パニックを起こして叫び出し、必死に抵抗した理由。マーゴをずるいと言った理由……。

つまりそういうことなのだ。

「コリーは……本当に辛かったでしょうね」

 マーゴは涙を流した。

 彼女はこれらのことを理解するのに数年かかったと言った。

「傷ついたコリーを優しく慰めて手当をすることで、私は自分に起こっている出来事をまるで他人事のようにして、耐えていたのだと病院の先生から言われました」

「どうやって助かったんだ?」

「私は学校に行けないほど貧血で弱っていました。心配して見に来た祖父に発見されました」

私は息を吐いた。よかった。

「祖父は、自分はコリーだと言って暴れて泣き叫ぶ私を見て、衝撃を受けたそうです。もちろん私は覚えてませんが」

「入院した前後の記憶もないのだろう」

彼女は頷いた。

「はい。コリーでしたから」

コリーに任せてしまって……記憶は数年分ないのですと、マーゴは申し訳なさそうな顔をした。

「祖父がお見舞いに来てくれていたようです。とても元気な人で。これからは私が祖父に恩返しをしないと」

「よかった。マーゴさんも無理はしないでくださいね」

「はい。騙すようなことをしてすいません。誰かにコリーのことを知ってもらいたかった。私が彼を忘れてしまう前に。どんどんコリーの存在が消えてきているんです。母親のことも」

「そういった治療なのかもしれないな」

アレックスは特に驚いていない。

マーゴは急にはっきりとした口調で-

「コリーは私を許してくれますか?」

「ああ。もう恨んでない。ずっとあんたの幸せを願ってる」

私も大きく頷いて、マーゴを励ます。

「そうね、幸せにならなくちゃ」

マーゴはアレックスを見て笑った。ここに来て、初めて見た心からの笑顔。

不意に呼び鈴が鳴った。

彼女が話し終わったのを見計らったかのように、一人の男性がやってきた。

「はうっ」

とても背が高く気品溢れる雰囲気に圧倒され、私は変な声を出してしまった。恥ずかしすぎる。

「失礼しました。怖がらせてしまいましたね、お嬢さん」

「い、いいえ! こちらこそ失礼しました」

彼は深々と頭を下げ、黙って分厚い封書をテーブルに置いた。

そして会釈をすると、マーゴをスマートに連れて出ていった。それはあっという間の出来事で、私たちは面食らってしまった。

「はぁん? なんだよあれ、気味の悪い男だな」

どの口が言うのか。

「かっこよかったわ。背が百九十センチくらいあったわよ。ちょっと驚いちゃったわ」

「そんなに高くないだろ?」

「そう? でもすごく高かった。それに礼儀正しくて優しそうな人ね」

「ケッ。てめえの目は節穴だなぁ!」

アレックスの悪態は聞こえないふりをして、ベランダに出た。

窓から通りをのぞくと、紳士はマーゴの肩をそっと抱くようにし、停車している辻馬車に乗り込んでいた。

レディファースト。女性をとても大切に扱ってくれる紳士だわ。

アレックスはすぐさま封書を破いた。

「おっー、すごいすごい! 見ろ! 一週間かけて汚い猫を探してやっと貰える額が、たったの二時間で手に入った!」

アレックスは封書をグシャグシャにして細長い引き出しにいれ、貰ったお金だけを別の箱に移した。

その中から一枚のお札を私に渡した。

「レベッカ、お前は買い出しに行く時間だ」

「あ、本当ね。いい時間だわ」

「牛乳が足りない。二本買ってこい」

「そんなに飲んだらお腹を壊すわよ」

アレックスは上機嫌で、私の頭をくしゃくしゃにするように触った。

アレックスの横を通り過ぎると、そうやって私の髪を触るのだ。まるで散歩中の犬をすれ違いざまになでるように。

「バカだな、あたしがこんなに飲むわけないだろ! 飲むのはこいつ。この薄汚い猫、いや、このお客様に飲ませてやらないと。上等なやつをな!」

まだぐっすりと眠っている猫を見つめ、彼女に聞いた。

「この猫、すぐに返すのではないの?」

「さっき訪ねたら、依頼主が酷い風邪を引いて熱を出していてな。あと二、三日、世話をお願いしたいとさ。また金がもらえる!」

すこぶる機嫌が良いアレックス。

「だから連れて戻ってきたのね。アレックス、今日は調子がいいわね。偏頭痛もなさそう。マーゴの二重人格も早く気づいていたみたいで」

「ああ、スカートの中にもぐったとき、足に傷がたくさんあったからな。気になっていた」

「なによそれ、ずるくない?」

「匂いも薬だったしな」

人並み外れたアレックスの嗅覚。今回も役に立っている。

「人形のような服装は怪我を隠すためだったんだよ」

確かにそうだ。

「……人は見た目ではわからないものね。とても素敵だったから、上流貴族のお嬢様なのかと思ったわ」

「レベッカ、お前はもう少しマシな格好をしたほうがいいぞ。若ければかわいいと思ってもらえると思うな。髪型からしてお前ヤバいからな」

そう言ってアレックスは私の顔の前で、ぶんぶん人差し指を振っている。自分の髪をそっと触ってみた。右側がだけが特にくしゃっとしている。

「なによ、もう! アレックスがくしゃくしゃにしたんでしょ!」

思わずアレックスのせいにして、彼女の背中を叩く。本当はいつもはねているのだけど。

私が大きな声を出すと、眠っていたかわいい訪問者はビクッと体を震わせた。

*****

アレックス商会の薄汚れた看板ー

深夜十二時。

真っ暗な部屋の中、細長い引き出しの中からグシャグシャの紙をもう一度、開く者がいた。

『互いの秘密を共有しようじゃないか』

蝋燭の火を移し、手紙を燃やす。秘密という文字はあっという間に消滅していった。

炎で人影が浮かび上がった。その人影はすぐに小さくなって見えなくなる。

そこに再び現れたのは獣の影だった。

低い唸り声が響いた。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 野蛮な彼女の彼女になる方法   無法島の一件 1 手配書

    『 グエン・エンバー Dead or Alive 生死を問わず 』 丁寧に折られた一枚の紙を、アラバマが鞄から出してきた。手配書だ。 「島の当主はノーマン・ダークだ。冷酷非道な男で、彼を怒らせたら生きてこの島からは、出るのは不可能と言われている。アレックス、お前も知ってるだろう?」 アラバマは脅すように言うと、ミックスジュースをズズズズーと飲んだ。 グエン・エンバーの手配書。ローテーブルに置き、顔を近づけまじまじと眺めるアレックス。目の釣り上がった狡猾そうな男の似顔絵。「こいつのお陰で、落ちぶれた無法島が再び盛り上がりを見せているらしいぞ。クックックックック」 再びガチョウみたいな笑いをするアラバマ。彼女はその後、仕事が忙しいとすぐに帰って行った。 掴めない人……。 夜、 家事も終わって、アレックスと私は二人でお酒を軽く飲んだ。酒のつまみはテーブルの上の手配書。 再びじっと眺める。発行元は無法島のノーマン・ダーク。 「これ、嘘でしょ? 今の時代にこんなことする?」 「だから無法島なんだ」 でも生死を問わずなんて、残酷過ぎるわ。 「……すごい額の懸賞金ね。彼とは幼馴染なの?」 アレックスは黙って手配書を見ていたが、コツンと机を叩いた。 「レベッカ……俺の部屋のシチュー、食べといてくれるか? あと掃除と支払いと」 「アレックス……無法島に行くの?」 「ああ」 これはチャンスだわ! 「アレックス、私も連れて行って!」 「はぁ? 勝手に行けよ。その代わり、あたしが無法島での仕事を終えた後にしてくれ」 「一緒に行けばいいじゃない。きっと役に立つから」 「足手まといになるのが目に見えてる。絶対連れて行かないぞ」 「そんなぁ……淋しいなぁ。アレックス〜お願い〜」 甘ったるい声を出してみたけど、おえぇぇぇと吐くマネをされ、叱咤される。 「そうだ、あの陰気臭いヤブ医者! あいつに連れて行ってもらえよ。ガス灯みたいな奴。ええと、コイ……アイ、じゃなくて-」 「ルイ医師」 「それだ」 「わざと間違えないでよ」 「今度こそ一緒に飲みませんかって、誘え」 ムカつくー!! アレックスの怪我を巡って不穏になったのは、いい感じに仲直りできたのに……私たち一緒に昼寝までしたのよ。 なのに私たちは、また言葉の応

  • 野蛮な彼女の彼女になる方法   同じ香りがした 3

     ワンピース、つまりスカートをバッとめくられてしまったので、もちろん太ももとショーツ……つまりパンティが丸見えになった。「なっ! 変態ー!」 スカートを元に戻そうとしたら、そのまま私の上に馬乗りになって-「ぐぇぇぇぇぇー!」 お腹を両手で押してきた。殺されちゃう! 凄まじい悪魔のような唸り声を出す私。「あ、強かったか? 」「うぐぅ…………」 スカートは元に戻してくれる。私は縮こまってお腹を抱えた。脂汗が出てきた。本当になんてことするの……。「内臓が潰れそうだったわ。マッサージって普通、背中とか肩をやるのよっ」「お前がいつも腹のとこマッサージしてくれるから、真似したんだ」 それは脇腹の傷と痣に薬を塗ってるだけよっ。優しく撫でてるだけでしょ! しかも下着を見られるなんて犯罪だわ。保安官呼ぶわよ! 最近優しかったから忘れてたけど、やっぱりアレックスって野蛮人だった。「仕方ないな……足を揉んでやるか」「大丈夫よ、アレックス……」「遠慮すんなよ、足は上手いからな」「結構です」 いや、遠慮じゃなくて……もう嫌、怖すぎる。 アレックスはアロエの塗布薬を少しだけ手に取って、私のふくらはぎをさすってきた。「あ、アレックス。強さはそれくらいでいいからね」「あぁ? これ、撫でてるだけだぞ」「いいのよ、それくらいが。気持ちいいわ」 これ以上、痛い思いをするのはイヤよ。アレックスに体を触られたらドキドキするんじゃないかと思ってたけど、そんな状況にはならなかった。「わかった。ローズマリーのやつはもっと強いけどな」 ローズマリー……。 やっぱりマッサージしてもらってたんだ。もちろん! それくらいわかってたことよ。平気よ。だって、薬の塗布なんてすぐ終わっちゃうもの。ローズマリー、優しいしね。サービスでやってもらったのよね。「お前、面白いなぁ」 フッとまたアレックスは笑った。 「自分がローズマリーって言うのはいいのな。あの女を褒めるのはよくて……けど、あたしが名前を出すのは嫌なのか?」「え?」「顔に出るもんなぁ。なんか困った顔するだろ?」 そ、そうなのかな? ……そうなんだ。「山で滑落して全身打撲なんだぞ。温めたりマッサージもやってもらわなきゃ、しょうがないだろ」 背筋が寒くなった。滑落……。 探偵の仕事って、常に危険と隣り合わせ

  • 野蛮な彼女の彼女になる方法   同じ香りがした 2

    「私もアレックスに……薬塗りたかった」 ああ……思い出すと、今でも恥ずかしいわ。私ヤバいやつね。 まるで子供。ずるい!私もやってみたかったーって言ってる小学生みたいじゃないの。「引っ越すから!」 どこへ? 引っ越して間もないですけど? やきもちの焼き方も……おかしいわ。 私、こんな人だったっけ? 孤児院にいたときだって誰かにこんな執着することなかったわ。いつも一人だったし。 なのにアレックスに怪我を隠されただけで、あんなに取り乱して怒っちゃって……。まぁ、ローズマリーがチャーミングだから心配なのもあったのかな……。 ドアを開けると、アレックスはソファに横になっていた。横に伸びていると、スタイルの良さがよくわかる。特に足が長いっ!羨ましいわ。普段のアレックスは少し猫背なのよね。 アレックスは肘をついていこちらを見た。「遅いぞ。召使い」「その言い方やめてよ」「ちゃんと契約書に追加しといたからな。ご主人様に薬も塗るって」 だから、それって……謎ですけど。「契約書なんて見せてもらったことないですけど。私のサインがないから無効よ」 アラバマが訪ねて来た日から3日経った。早朝の仕事を終えると、アレックスのところに急いで行っている。 自分の部屋でさっとシャワーを浴びて、ゆったりとしたワンピースに着替えてから。 朝市がやっている日は、少し遠回りをして食料品などを買って帰るのだけど、あれからは寄ることもしない。アレックスのところに早く行きたかったから。 ローズマリーから買っている塗布薬がテーブルの上に出ていた。 足の短い小さな椅子をソファの横に置いて座る。私は機嫌良くアレックスの背中をさすった。「今日もマッサージしてあげるから」「いいよ、薬だけで」 アレックスは仰向けになった。仰向けになっても胸の丘陵はしっかりとして、大きいのがわかる。羨ましいなぁ。 シャツの裾をそっとめくる。白くて細い腰回り。だけどしっかり鍛えられているわ。「だって肩とか凝ってるじゃない」「お前の触り方、まどろっこしいから嫌だ」「まどろっこしいって? もっと力を入れるの? ローズマリーはマッサージは強いのはあまりよくないって」  アレックスは私を横目でチラリと見たけど、なにも言わない。 綿棒のような小さなスプーンで軟膏をすくってアレックスのお腹の怪我にそっ

  • 野蛮な彼女の彼女になる方法   同じ香りがした

    アレックスの細い脇腹から背中にかけて、紫の大きな痣と、その中央に刺されたような傷があった。刺し傷の方はほぼ治りかけてはいたけど。 「酷い怪我じゃない?! 馬車にでもはねられたみたい。病院は? ていうか、いつからなの? なんで言ってくれないの?」 とにかく捲し立てる私。 「なんで……」 「レベッカ、落ち着けよ。たいしたことない。この仕事をしていれば、こんなこともあるんだ」 「そうかもだけど……」 そうかもしれない。でも……どうして言わないのよ。たいしたことじゃないことばかり頼むくせに! ハッと私は息を止めた。 つい最近ローズマリーが、私に似合う香油があったと、急に訪ねてきた。 どことなく不自然だった。 そのとき私は、仕事で肘を少し擦りむいていた。ローズマリーは傷によく効くヨモギと毒ダミの塗布薬を持っているからと、私の肘に塗ってくれたわ。 あの独特の香り……そう。アレックスの部屋でもここ最近、同じ匂いがしていたの。アレックスは花の香りは苦手だけど、薬草とか薬味は大丈夫なのを知ってたから、疑問は特にもたなかったけど……。 「……ローズマリーは知っていたの?」 「なんのことだ?」 「その怪我よ!」 「どうでもいいだろ?」 どうでもよくないわ! どうでもよくない! だって! …………だって………。 なぜ、どうでもよくないの? そ、そうよ! そっちは私がサロンに行くときも、熱を出したときも、めちゃくちゃ怒ったじゃない。理不尽なくらいに。 だから私だって怒るわ! 「あ……そうだ。それよりも前……ジョーイが行方不明になった夜。アレックス……次の日の昼に帰って来たわよね?」 「そうだったか?」 「ええ。でもジョーイが、さっき言ってたじゃない。すぐにアレックスはいなくなったと……頭が痛いからって。ジョーイを引き渡したのは夜中。それから次の日の昼近くまで……一晩中どこにいたの?」 アレックスはあの夜、山で怪我をしたに違いない。だってあの日以来、私の前で洋服を脱がないから。 あの夜、夜間病院か………それとも……。 「ローズマリーのところにいたの?」 黙っている。アレックスは目をそらした。ほんとわかりやすいわ。これは肯定。 もし間違っていたら……あぁ? なに言ってるんだ。とか言うも

  • 野蛮な彼女の彼女になる方法   アラバマの正体 2

    さて……と呟いて、アレックスは子供たちが出ていった扉から目を離した。「悪い悪い。今度は使いをよこすから、ここに来る前に連絡をくれたらいい」 私は怪訝な顔をする。「使い?」「こちらがレベッカ……俺の召使いだ」 アレックスが私を指差した。 私? 私だって予定はいろいろあるのよ? そして召使いって紹介はやめて。「ふん、……いい気なもんだ。使いねぇ。こんなのっぺり顔の貧相な女、まっぴらごめんだえ」 はぁ?! 聞き間違えたのかと思うほどの暴言。「なっ、こっちの台詞よー! もっと可愛らしいご婦人なら喜んで行くわよ」 こんな婆さん嫌よ! と言い放ち、私は腕を組んでプイッと横向いた。「型遅れのワンピースを着た娘と一緒に歩きたくはない。こっちからお断りだぇ」 なんですってー! かなり傷付いた。お気に入りのトゥニカなのよ!「大切な人からもらった服なんです!」  婦人を魔女と言って、叫んだ事は棚に上げ、傷つく私。「レベッカ、年配者には敬意を払え。いつも言ってるだろ。すみませんねえ」 なによ偉そうに。だいち、ここは私の部屋よ。やっぱり出て行ってもらおうかしら!「クックックックッ」 突然、ガチョウのような声で婦人が笑った。彼女は笑いをこらえ、丸い腰を震わせている。「相変わらずだね、アレックス」 婦人が顔を伏せたまま、太いしゃがれ声を出す。まさかアレックスと知り合いなの?「いや……アレクサンドラえぇ。俺と言うのはやめろと教えただろ?はしたない」 アレックスはふぅとため息をついた。婦人はうなだれた頭を持ち上げる。企んでるような……それこそ魔女のような顔で、アレックスを見つめていた。 アレクサンドラと呼ぶ人がいるのね。この街の人はアレックスと呼ぶのに。「もう猿芝居よせよ」 アレックスはため息をついた。 婦人はにたりと笑う。アレックスは人から恨みも買っていそうだけど、こんな小さな老婦人とトラブルはないわよね?昔からの知り合いっぽいし。 私は気を取り直して、キッチンに向かった。「あの、紅茶入れてきますね」「お嬢さん、できたらバターたっぷりのスコーンも付けてー」 背後で地鳴りのような音が聞こえ、私は思わず身を屈めてしまう。 振り返ると、アレックスが婦人を締め上げていた。 えええええ!?「ふざけるなよ」 私は目を疑った。重たいソファー

  • 野蛮な彼女の彼女になる方法   アラバマの正体

    子供たちのアップルティーが空になった。アレックスは、時計と彼らを交互に見て私に合図をする。 「はい、これでおしまい! さあ帰りなさい」 ごねるライチとジョーイの背中を押しながら、扉へ向かった。そこへちょうど呼び鈴が鳴る。 ジョーイが焦った。 「まずい……お母さん迎えに来ちゃった!」 「ほらね、言ったじゃない」と私。 「確認してから開けろ」 アレックスの声とほぼ同時に、はーいと言って私はにこやかにドアを開けた。 一瞬にして凍りついた。 ライチが大絶叫。その声に反応し、私とジョーイも玄関で尻もちをつき、ひっくり返ってしまう。 「ま、ま、まっ、魔女ー!」 ライチが叫ぶ。私たちの目の前にいるのは、白と黒が半分ずつ入り混じった長髪のチリチリ髪……。 「裏山から、ま、魔女が下りてきた!」 髪で隠れて顔がわからない。ジョーイはガタガタ震えている。 魔女? は腰が曲がっていて、真っ黒いローブを着ている。 「助けて……子供たちだけは……食べないで」 魔女から目が離せず、前を向いたまま子供たちを庇った。後ろを向いたら、そのすきに喰われてしまうわ。 怖がりのジョーイは、奥の扉にまで這いつくばると、扉を開けようしたよう。 「開けるな!!」 アレックスが怒鳴る。ジョーイはヒッと言って固まってしまう。 「アレックス商会はこちらかぇ?」 「キャー、魔女がしゃべったー!」 「…………いや、すまんが、アレックス商会で間違いはないかぇ?」 意外と流暢な話し方の魔女だわ。 「魔女なのに探し物は探偵に頼むの?」 ライチが震えながら質問すると、全員が黙った。 「なんなんだい……私みたいな貴婦人を3階まで上らせ、留守のときは下の階に来いとは! 老体に鞭打って上ったり下りたり。そしてこの対応かい?」 「あ、あなたはもしかして、人間ですか?」 ジョーイがひょっこりと顔を出す。 「あんたバカかい?」 「いいから入ってもらえ。客だ」 えーー!と子供たち。 アレックスは一人落ち着いている。私たち三人は死ぬほど驚いていたのに。 「あ……。アレックス、案内を出してるのね。こっちに来るように」今この婦人の発言でわかったわ。 アレックスが私の部屋でくつろいだり食事をしていると、アレックスの依頼人が私の部屋に来るの。ライチ

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status